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一般社団法人 日本翻訳協会は翻訳の世界標準を目指します。

     
   共催: ・一般社団法人 日本翻訳協会  ・バベルユニバーシティ

「リーガル翻訳能力検定試験」試験対策セミナー  レポート                          

 ・早稲田大学第一法学部卒業
 ・総合商社にて海外営業、海外法務に携わる
 ・バベルにて法律翻訳に必要な知識・技法を習得
 ・現在バベルにて、リーガル部門の通学・オンライン講座の講師を
  務める


「リーガル翻訳能力検定試験」試験対策セミナーを受講して

レポーター:中澤恭子
現在バベル翻訳大学院にて勉強中。専攻はインターナショナルパラリーガル・法律翻訳。勉強自体は楽しいものの、なかなか進まないのが目下の悩み。


 日本翻訳協会による「リーガル翻訳検定試験」が9月20日に行われるのを前に、バベル翻訳大学院でリーガル翻訳の講師を務められている五月女穣先生による対策セミナーが8月2日に開催されました。そのセミナーの様子をここでお伝えしたいと思います。
 現在、ボーダーレス、グローバル化と言われる時代の中で、政治や経済だけでなく、芸術やスポーツなども含むあらゆる分野で、契約書などの文書のやり取りが増加しています。契約書などの法律関係に使われる言語としては、国に関係なく英語が基本となっており、正確さとスピードを両立でき、且つ専門分野の知識もあるようなリーガル翻訳家の需要がますます高まっています。
 こうしたことを踏まえ、リーガル翻訳家を目指す人が、まず知っておくべき法律文の特徴について、何点かお話がありました。
 一つ目の特徴は、法律の文章にはいくつかの条件があるということです。正確性、厳密性、簡潔性、明快性などがありますが、特に大切なのは読みやすさです。翻訳が終わった後自分で読み直してみて、自分で本当に意味が分かる文章に仕上がっているか確認することが大切です。
 次に法律文で避けるべき点ですが、それは、多義性と曖昧さ(読点一つでも意味が変わるので注意)、過度の精密さ(自分で自分の首を絞めることになる)、一般化のしすぎ、言葉の言い換え(言葉の言い換えがあると、何について話しているのか分からなくなる)、そして、視座の転換(主語を統一して、分かりやすくすることが大事)ということでした。
 その次は、当たり前のように思われますが、法律文では決まった法律用語(そしてその対訳)が使用されるということです。その法律用語の中で、翻訳する人がよく間違えるのが、considerationという言葉だそうです。これは、法律用語としては「対価、約因」と訳します。その他、frustration(状況の大変動)や、performance(義務の履行)などが例として挙げられました。
 また、法律文で使われる助動詞ですが、shall、shall not、be entitled to、may、mustが使われ、willやcanは正式には使いません。なお、shallではなくmustが使われるのは、内容に法律要件が入ってくるときです。
 さらに、結論となる文章に、providedやifを使い条件や但し書きが付いた複文が多いということや、契約書などには特に共通条項が多い(特に不可抗力、契約解除、準拠条項など)、そして表現を厳密にするため修飾が長いといった特徴があります。
 以上のような特徴とともに、法律文には独特の言い回しがあります。この独特な言い回しには、それぞれ定訳も存在しているので、その定訳を200から300個程度覚えることが、リーガル翻訳家となる必要条件のようです。
 法律翻訳の作業は、言って見れば数多くの技法を駆使することのようですが、その一部について解説がありました。
 否定文を訳す時には、何種類かの技法がありますが、この学習に役立つものの一つが、日本の憲法の英日比較です。「何人も?してはならない」、「…はこれを?してはならない」などの表現が憲法にありますが、その言い回しは他の多くの法律文に応用が利きます。
 また、英文によく見られる受動態ですが、日本語に訳すときの技法の一つとして、能動態に変えて訳すということがあります。
 もう一つの技法ですが、文章を頭から訳しおろすことです。これは、翻訳のスピードを上げるためにも大事なことです。また、無生物主語が多いのも、英文の特徴ですが、これについても、人を主語にする文章に訳す方が自然な日本語になる、とのことでした。
 最後に、事前に渡されていた試験の例題についての解説が行われ、五月女先生のセミナーが終わりました。
 その後、実際の試験内容についての説明が行われました。この試験は、プロの人が客観的な評価を得るために受けるだけでなく、現在勉強中の人が実力を知るために受けることもできるものです。結果は、5段階の評価によって示され、目標とするところは80%(2級)以上だとのことでした。その結果の通知には、点数などの評価も含まれるということですので、自身の実力がより明確に分かるようです。日本翻訳協会のサイトから、試験対策のページに行くと、過去の問題も掲載されているので、試験勉強に役立つと思われました。
 私自身は、まだまだ勉強が足りていないので、受験はまだ先だと思いますが、あまり遠い将来ではなく、近いうちにこの試験で良い結果を出す、ということを一つの目標として設定するのも良いのではないかと思いました。また、試験の対策のための資料が整っていることも、受験を身近に考えるためには必要なことなので、その点も評価できると思いました。

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レポーター:笹栗 実根
バベル翻訳大学院に在学中。(リーガル翻訳専攻)1999年、テレビ局のワシントンDC特派員として渡米、結婚を機に退社。子育ての合間にフリーライター、ドキュメントレビューなどしながらDC在住。


「リーガル翻訳能力検定試験」いかにも難しそうなテスト名だ。翻訳の勉強を始めたばかりの私にはずっと先のこと、と思っていたが、今回お誘いを受けて、とりあえず、セミナーを受講することになった。
まずは、課題文が与えられ、事前に解答して提出。大きく分けて、英日翻訳、日英翻訳、さらに英文の要約という構成だ。案の定、私にとっては、かなり難しい。単に英語力というだけでなく、英文で多くの法律文を読みこなしていないと、すんなり解ける内容ではないことが、よくわかった。そういうレベルの高さを知るだけでも、ひとつの情報を得たという意味では、セミナー受講の価値があったと言える。
でも、セミナーの価値は、それだけにとどまらなかった。「おそらくセミナーのときに、模範解答が示されるだろうから、その時、自分の解答と比較すればいいか」と軽い気持ちでいたが、セミナーよりも前に、びっしりと赤で書き直された自分の解答用紙がメールに添付されてきたのだ。
要約の部分は、セミナーで説明されるとのことだったが、それ以外は、きめ細かく、五月女講師のチェックが入っていたのである。改めて、試験の難しさと自分のレベルの低さを感じざる得なかったが、そんな私の解答でも、ここまで丁寧にチェックしてくださったことに、頭が下がった。このセミナーは、複数の受講生を対象としていながら、実は、かなり個別の指導なのである。
最初「富士山」と思っていたら、実は、「エベレスト」だった、というぐらい、私には難しい、レベルの高い試験だが、とりあえず、山のふもとにたったことで、その攻略法を教わることにした。
セミナーでは、実際に、課題文の翻訳の仕方について、五月女講師が気づいた点を指摘。英文契約書の書式には、どんなものがあるか、この問題のキーワードは何かも列挙。さらに、要約文の模範例も示された。自分だけでなく、他の受講者がどう翻訳していたか、という話も聞けて、とても参考になった。
それでも、この課題文は、セミナー全体の後半の一部に過ぎない。セミナーの主な内容は、もっと全体的なリーガル翻訳の重要事項についてで、意義深いものだった。具体的な法律用語のリスト、権利・義務・許可・禁止の基本パターン、条件と但し書きの書き方など、翻訳ビギナーの私には、そのまま、頭に叩き込みたい内容ばかり。また、翻訳の具体例として、否定文の訳し方、受身を能動に訳す、訳し下ろしの技法、無生物主語の訳し方も、例文とともに示され、受講生の理解が深まるよう、丁寧に準備されたものだった。
今回のセミナーは、五月女講師のいつもながらの、きめ細かい指導を受けられるメリットのほか、「リーガル翻訳能力検定試験」が、どういうものかを知る、いい機会にもなった。
「リーガル翻訳能力検定試験」は、合否がない!つまり、落ちることがない、という事実を、いったいどれだけ多くの人が知っているだろうか。私も、このセミナーを受けるまで、全く知らなかった。
「英語の試験」というと、「英検」を思い浮かべる人が多いだろう。正直言うと、私は学生時代、この英検の1級に何度か挑戦したものの、なかなか合格しないので、諦めてしまった苦い思い出がある。それ以来、「どうせ落ちる」と思うテストは、受ける気がしない。ましてや、「リーガル翻訳検定試験」など、私にはもってのほか、だと思っていた。ただ、今回、セミナーを受けたことで、一応、情報として知っておこうと、「合格ラインの点数」を質問したところ、「合否ではなく、点数に応じたグレードが示される」と聞いて、驚いた。つまり、1級、2級を、それぞれ受けるのではなく、一度受けたテストの点数が、「90点以上なら1級」「80点以上なら2級」という風に、実力に対して「評価」が下るというシステムなのだ。ということは、第三者に対して、自分の翻訳力を客観的に示すことができるだけではなく、自分の目標にどれくらい近づいたか、毎回チェックできる、というわけだ。プロなら1級、2級が求められるそうで、私にはやっぱり「エベレスト」並みに、遥か遠い話だが、「落ちる」恐怖感がないのは、有難い。しかも、オンラインで世界どこからでも、参加可能という試験なので、私のように、海外に住んでいる者にとっては、便利なシステムだ。
翻訳の勉強は、その道のりが長いことと、孤独との戦いという点では、山登りに似ていると思う。自分がいったい、どこまで登ってきたのか、あとどれくらいで頂上なのか。そんなことを知りたくなったら、この「リーガル翻訳検定試験」を受けてみてはどうだろう。そして、少しでも試験に興味があったら、どんなものかを体験するため「試験対策セミナー」を受講することをお勧めする。

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レポーター:山本 冬子
2013年からバベル翻訳大学院で勉強を開始。専攻は金融・IR。0,2歳の育児に追われつつも一日も早く翻訳で食べていけるよう日々邁進中。


セミナーのレポート
8月2日の14時半から五月女 穰氏が講師としてリーガル翻訳能力検定試験 試験対策セミナーと題し、2時間語って頂いた。セミナーでは法律翻訳の大切なポイントを分かりやす具体例を使って効率的に説明され、練習問題の解説や参加者の質問への応答等、有意義な2時間であった。試験に関する説明も行われた。詳細は以下の通り。

[1] 法律翻訳が必要な理由
現在はボーダ−レス、グローバルな時代となり、国際間での法律に関する文書のやりとり、特に契約書が著しく増加している。法律文においては、世界各国で英語が共通言語である。これを踏まえると、法律翻訳市場は今後も拡大していくことが見込まれる。

[2] 文芸翻訳と法律翻訳との相違点
文芸翻訳は、「行間を読む」ことが要求され、「ひらめき」及び「洗練された」訳文に重点が置かれる。また、読者層が限定されない。しかし、法律翻訳は無味乾燥で、「行間」を訳出してはならず、表現されたもののみを正確に訳出しなければならない。また、読者層が弁護士、企業の法務担当者等に限定される。法律翻訳では「大量」「速さ」「一定の型」が最重要となる。

[3] 法律文の特徴、 その1
1)法律文の7条件として、正確性、厳密性、読みやすさ、簡潔性、首尾一貫性、そして直接性が求められる。特に読みやすさは最も重要である。

2) 法律文で避けるべきことには、多義性と曖昧さ、過度の精密さ、一般化のしすぎ、言葉の言い換え(payment (支払)、remittance(送金)、reimbursement(払戻し)をきちんと使い分ける)、冗漫さと重複表現、そして視座の転換(一つの行為を一方当事者の義務として書く、他方当事者の権利としても書ける)が挙げられる。

[4] 法律文の特徴、その2(より具体的に)
1)法律用語(Legal Terms)を使用 たとえば、action「行動」ではなく、「訴訟」consideration「考慮」ではなく、「対価、約因」damages「損害」ではなく、「損害賠償」file「書類を綴じる」ではなく、「(法廷に)訴状を提出する」forum「広場、公開討論会」ではなく、「裁判開催地、法廷のある場所」performance「興行、成績」ではなく、「義務の履行」personal property「個人的財産」ではなく、「動産」service「奉仕、業務」ではなく、「(訴状、召喚状等の)送達」など。
2)基本文体(人, 契約当事者が主語となる。)
3)権利・義務・許可・禁止
法律文(契約書、規則)は、原則的にこの4つの何れかを表現しており、これ等をshall, shall not, be entitled to, may、mustの5つを使って表現する。義務表現ではshall を使う。
強く義務を表現する場合「せねばならない」、緩やかな場合「するものとする」と 訳す。
禁止表現にはshall not又はmay not(No one may)を使う。権利の表現には、be entitled to を使う。許可の表現にはmay を使う。許可は禁止の反対を表す。法律要件の「ねばならない」及び「〜を要する」には must を使う。
4)条件と但し書
法律文は単文で書かれることが少なく、条件、但し書き等を付した複文で書かれることが多い。
5)共通条項
法律文書(特に英文契約書)の幾つか条項については、共通しているものが多い(例、不可抗力、契約解除、準拠法条項等、秘密保持条項)。
6)長い修飾
法律文では厳密に表現しなければならないので、どうしても修飾が長くなる。

[5] 法律翻訳の具体例
1)否定文の訳し方
@「何人も」「いかなる者も」と訳す。
A「No」を通常の否定に訳す。
B契約書中の強意の否定文
C通常の否定文
D否定文を肯定文に訳す。
2)受身を能動に訳す。
@日本語の第一主語と第二主語(〜は、〜が〜する)を適用すると滑らかな日本語になる。
A主語なしの能動形に訳す。
B文語調の「これを」つけて能動に訳す。
3)翻訳の技法(後からの訳、訳し下ろし)
UnlessやIn case等If以外の条件文が主文の後ろにあるときは、その前で切って、訳し下ろしをすると読みやすい文章になる。
4)無生物主語の訳し方
受講生からの質問
Q 法律では基本的には人が主語になるが、無生物主語で書かれるのは何故?
A 各人のスタイルの違い

最後に、「リーガル翻訳能力検定試験」 試験対策セミナー 提出課題の解説が行われた。五月女氏の解説の終了後、試験に関して簡略な説明がなされた。受講生からは、試験参考問題(同協会のホームページに掲載されている)や試験の評価方法(合否判定ではなく、グレードで評価。1級を取得するには概ね90%以上の正解が必須となる)について質問等があった。


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